風が吹いたら
私には昔からある
“特別な力”がある
その“特別な力”が
一体何かと言うと
例えば何かステキなことが起きたり
感動する出来事の前に必ず
───ふわっ
という優しい風を
全身で感じること
親や友達
周りの人に言ってみても
誰も共感してくれなかった
気のせいでしょ?
って、みんなに言われた
でも私だけが感じるその風は
決まって私の中で
何か大きなものが動くとき
その後の記憶の中へ
深く刻まれていく出来事のとき
優しく私を包み込んでくれた
彼にこの事を話したのは
いつのことだったろう
確か付き合い始めて
初めての旅行の日
ずっと楽しみで仕方なかった
目的地について散策を始めたとき
───ふわっ
あの風が私を包み込んだ
「あ、何かいいことがある気がする」
つい口に出して言ってしまった
すると不思議に思った彼が
当然のことながら理由を尋ねる
きっとバカにされる
そう思ったけど
隠すことではないからと思いなおし
彼にその訳を話した
聞き終えた彼は優しい顔で
「そうなんだ、じゃあ今日は何が起こるか楽しみだね」
そんな事を言われたのは初めてで
正直かなり驚いた
すんなり受け止めてくれるなんて思ってもいなかった
するとまた
───ふわっ
あの風が吹いた
この人となら大丈夫だよ
風がそう言っている気がした
でも実はこのことはまだ
誰にも言っていないんだ
もちろん彼にもね
そんな彼との結婚が決まり
初めての会場見学
ピエトラセレーナの入り口を抜けたとき
───ふわっ
あ、きた
声には出さなかったのに
彼がこっちを見てニヤッと笑った
「今、吹いたんでしょ?」
「うん、吹いた」
さぁ、何か素敵なことが
起こる予感がする