ウエディング・ベール
静寂の時。
すべての準備が整い、ご両親との対面。
ドアマンが 「間もなくです」と
小声で 入場間近の合図。
私は父と腕を組み、ブライズメイドが大扉の前に立った瞬間
入場曲のアヴェマリアの演奏が始まった。
それは、まるで
天井から聴こえてくる天使の歌声のようで・・・
包み込まれるような聖歌隊の歌声、
赤いウェディングロードとブルーのステンドグラス。
小さな頃から 夢に描いていたシーンが
そのまま 動き出してゆく。
ただひとつだけ、
私の幼い夢にはなかったこと、
それは
涙を抑えながらウェディングロードの手前に立つ
母がいることだった。
私も 溢れ出そうな涙をこらえながら近づくと
母はいつもの優しいまなざしで小さくうなづき、
私のベールをゆっくりおろしてくれた。
娘への最後の身支度・・・。
『 ベールダウン 』
単に、華やかさを演出する 花嫁の飾りではない
その一瞬に込められた母の想い…
母は何かをつぶやいたが 小さなその声は聞き取れなかった。
でも母の想いは 痛いほど私に届いていた。
「 幸せにね。 」
精一杯の母の言葉は
私の心に しっかり届いていた。
『 たくさんの愛情で 大切に育ててくれて
ありがとう、 お母さん! 』