結婚式日和
あれは何年前だっただろうか。
まだ車の免許をとれるような年齢ではなく
移動手段はもっぱら「自転車」。
彼女とのデートも もちろん自転車。
褒められたことではないけれど 彼女は荷台に座ってもらって
自転車で、いろいろなところに行った。
大通りに遊びに行くのも自転車、
買い物も自転車、
お祭りも、海も、全部自転車だった。
お互いに部活動もなんにもしていないものだから
土日になると あてもなく二人で自転車に乗って
知らない場所に行くのが好きだった。
あの場所を見つけたのも、ふらっと出かけた日だった。
「山を目指そう」なんて言い出したのはどっちだったか忘れたけれど
とにかく山に向かって自転車を走らせた。
すごく天気のいい日で、爽やかな風が心地良い。
こんな日は何日和と言えばいいのだろう。
山の近くに来るまでは スイスイと来たけれど
麓にくると 当たり前だけれど坂が多い。
自分一人でもきついような坂だけれど
意地でも彼女を荷台から降ろしたくなくって
汗をかきながら ペダルを漕ぐ。
上り坂を超え、下り坂を降りきったところに見えてきたのが、
白くて平らで、綺麗な建物。
その前にずらっと並ぶ人たち。
「この建物、なんだろうね?
あの人たち、だれか待っているのかな」
彼女が言うものだから、ペダルを漕ぐ足を止める。
足を止めると同時に
一台の車が白い建物の前に入り
ずらっと並んだ人たちが拍手を始める。
車から降りてきたのは ふわりとしたウェディングドレスの女性と
ぴしっとしたタキシードを着た男性。
どちらも幸せそうで 鳥肌が立つくらい素敵だった。
あぁ ここは結婚式の会場なんだね、と話しかけようと彼女を振り返ると
見たことないくらい目をキラキラさせて
一緒になって拍手をしている彼女。
あ、ここで彼女と結婚式をしよう。
目がキラキラからウルウルに変わりそうな彼女を見て
なんとなく、思うだけではなくきっと本当になる気がした。
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結婚をしようと決めてから
式を決めるまではすごく早かった。
彼女はあの白い建物のことを覚えていた自分に驚いていたけれど
自分はあの光景を見た日付まで覚えている彼女に驚いた。
そんな経緯で会場も日程もすぐに決まって
迎えた日は すごく天気のいい日で、爽やかな風が心地良い。
こんな日は・・・
「今日は 結婚式日和だね!」
車のドアが開いて あの日の光景が蘇る。
そうだ。こんな日は結婚式日和と言うのがふさわしい。
目をキラキラさせてとても綺麗な彼女の隣で
ぴしっとタキシードを着て。
今日は荷台に乗ってもらうのではなく
手を取ってしっかりエスコートしよう。
でも、いつかはまた。
「式が終わったら、また自転車で遊びにこようね」