【ウエディングSTORY】心を込めて花束を
「結婚しようと思って」
一番最初に報告したのは父だった。
一番は父がいいとかではなく、ただなんとなく。
・・・いや。うそ。ある狙いがあって、
母よりも先に父に報告をした。
「そうか。わかった。…良かったな。」
父はいつだって、突拍子もない私の決定事項に否定をしない。
私が誰にも相談せずに進学先を決めたときだって
仕事を辞めたい、と泣きながら相談したときだって
実家を出る、なんて話が一ミリも出ていない時に
彼とふらっと見に行ったマンションに契約してきたときだって
驚きはするものの、反対することはなく
「わかった」 と一言で終わるのだ。
私は父に、「少しでも反対して」ほしくって
意地になっていたのかもしれない。
さすがに結婚という人生1、2位を争う重要な決断であれば
「わかった」以外の言葉があるだろう。
そんなことを考えていた私からすると拍子抜けな答えで。
やっと嫁に行ったとでも思っているのだろうか?
少しだけ、わがままなのは百も承知ではあるけれど腹が立つ。
母に、報告も含め、父へのそんな愚痴を漏らすと。
母は少し間をおいて話し始めた。
「パパ、昨日泣いてたよ」
「まなみが小さい頃は、パパも扱い方がわからなくってつい怒鳴っちゃって。よく泣いていたの覚えてる?」
「口を出しすぎて 泣かせてしまった思い出があるから、今は、まなみの気持ちを優先するんだって、味方でいるんだっていつも言ってるよ。そんなの口だけでさ、お母さんに『まなみにこれを聞け、あれを聞け』って毎日のように言ってくるんだよ。家を出る、って言った日なんて、『なんとか止めさせよう』ってうるさくってしょうがなかったんだから。」
「でも、昨日はパパ泣いてた。寂しいし、心配だし、嬉しいんだ、って。」
思い返すと、父はいつだって私の味方だった。
学校で友達と喧嘩してしまって担任の先生に呼び出された時も。
仕事が上手くいかずにむしゃくしゃして、母にあたってしまった時も。
ふらっと実家に戻った時だって、いつでも暖かい言葉をかけてくれたし、励ましてくれた。
どんなに背伸びをして、自分で決める!と意地を張っても
どこかで父の言葉に甘えていたんだろう。
「私のことを考えてくれていないんじゃないか」なんて、少しでも思った自分に後悔した。
結婚式の日だけは、素直に。
きっと、父にとって私は期待通りの娘ではなかったけれど
今まで幸せをくれた父に、心を込めて。
・・・もし 泣いてしまいそうなときには
時間を止めて、抱き寄せて ね。