【ウエディングSTORY】ママへのプレゼント
結婚しよう。
その一言をきっかけにして、早5年。
5年前のあの日、すでに君のお腹の中には二人の新しい命が宿っていた。
お腹が大きくなる前に結婚式する?
最初はそうやって言ってたけど、初めての妊娠で戸惑うことばかり。
君の体調が優れない日も多々あったし、喧嘩も増えたりして。
元々結婚したらなんとなく、報告がてらにするものくらいの認識でいたから、
自分たちの結婚式のことを考えるよりも、
あたりまえのようにこの子が無事に産まれるように祈る日々が続いた。
数ヵ月後、2人の間に産まれたのはとても小さな女の子。
子育て初心者の僕たちは、小さなことで2人して戸惑っては慌てふためいて。
なんとかしてあげたいとは思いつつも、当時は知識も力も足りなくて。
でも子供っていうのはすごいもんで、僕らの心配をよそに日に日に強くなっていって、 めまぐるしいほどに成長していった。
僕らの興味関心は常に娘のことばっかりだった。
初めて言葉を話したとか、立ったとか。
仕事でなかなかその瞬間に立ち会えなかった僕のために、家に帰れば君がたくさん話してくれた。
そのうちね、落ち着いたらね。
なんて言ってた結婚式のことは記憶の中から薄れていって、気付けば忘れ去られていた。
それと引き換えにして、成長してもなお僕らを釘付けにしている娘は毎朝元気に僕をたたき起こして、
家の中を走り回って君に怒られたりするようになった。
幼稚園にも通うようになって、家に帰ると今度は自分の口からたくさんの話をしてくれるようになった。
誰と友達になって何をして遊んだとか、今日の髪型がお気に入りだとか、明日のごはんはなにがいいとか。
他愛もないそれに癒される毎日。
そんな毎日に突然、賽は投げられた。
ねえねえ、ケッコンシキいつするの!!
きっと、幼稚園で友達から何かを聞いたんだろう。
我が家では出る事のなかった話だから。
結婚式。
久しぶりに聞いたその単語に、僕たちは顔を見合わせた。
そういえば、してないね。
僕がそう言えば、娘は鼻を高くして、誇らしげな顔をする。
いいよ、今更でしょ。
なんて、君は照れくさそうに笑ってた。
そうだよね、今更だよね。
僕もつられて笑った。
それを見て、娘はつまんなそうに頬を膨らませる。
それから数日間続く娘のおねだり攻撃に、痺れを切らして聞いてみた。
ケッコンシキって、なにかしってるのって、ちょっとした意地悪。
そんな意地悪にもめげることなく、目を輝かせて語るんだ。
女の子の永遠の夢だよ!って。
結婚式をすること?ドレスを着ること?
きっと本質的なことはわかっていないのかもしれないけれど、
君にドレスを着せてあげたいなって思う気持ちは少なからずあって。
うん、ちょっと、悪くないかもしれない。と思い始めていて。
何より、この子も楽しみにしてることだし。
特別なことはしなくていい。
美味しいお酒と料理を楽しみながら、大切な人たちとただ笑いあって。
シンプルでいい、何もなくていいから素敵な時間を。
想像しただけで、少し楽しい気持ちになった。
わかりやすいとよく言われる僕のことだから、きっと顔に出てしまっていたんだと思う。
同じようにわかりやすい娘がにやにやして僕を見ていて、我が娘ながら策士だなと感じて。
こんなの何年ぶりかもわからない、小指と小指で約束を交わした。
「来年のママの誕生日プレゼントは、結婚式で決まりだね。」